
呼吸する家
ニュータウンにおける住宅の設計提案。要望は「周辺環境への思いやりのある戸建て住宅」というものであった。
「思いやりのある」状態は、敷地内で居住環境を最大化することでは成立し得ないと考えた。ニュータウンの細分化された区画、という文脈を考慮するならば、むしろこの家をきっかけに近隣住宅がより良い環境を享受できることが必要となる。一方で設計する住宅そのものの居住性も確保する必要があり、利他と利己を両立させ得る構成を追究した。

そこで、設計した住宅は1階に温室、2階に最小限の居住スペースを配置した構成とした。地盤面に温室を設けることで、高密に建てこんだ住宅地に風の通り道が生まれ、全面道路から庭、そして周辺の住戸へと連続するような、奥行きのある景観が形成される。
さらに、温室を下階に持つことで、設計した家そのものの居住環境も向上するよう工夫を施している。温室の外周部を全面開放可能な建具で設えることで、夏は温室を開放することで風を通すことが可能となる。冬は建具を閉じ、温室で温められた空気を上階に循環させることでオン熱環境を安定させる。
風と熱を手がかりに、夏・冬で居場所がスイッチするような暮らし方を想定している。それが一住戸で完結せず、周辺にも波及していく。環境に応じて人や風景を取り込んだり、或いは吐き出したりといった様々な関係性をもたらす循環器のような住宅である。